今回のステキ人は、大阪府浪速区で足爪補正士・フットケアセラピストのお仕事をされている石橋友美さん。
石橋さんはフットケアセラピストの他に、日本舞踊千扇流の師範として日本舞踊家としての一面を持ち、さらに西成区を拠点に活動している”おっちゃん”たちによる紙芝居劇団「紙芝居劇むすび」のマネジャーとしてもご活動されています。
前回のステキ人Akiさんとは、Akiさんが石橋さんのお店Bondir(ボンディール)に足を運んだ時からのお付き合い。「フットケアのお仕事をしている方ですが、西成区での活動など色々なことをされている方なので、素敵な話が聞けると思います。」と今回、石橋さんとのご縁を繋いでくださいました。
セラピスト・日本舞踊家・マネジャー、3つの顔を持つ石橋さん。
本インタビューでは、石橋さんのそれぞれのご活動を伺うとともに、なぜ多面的な活動をされているのか?そして、そこから何を見ているのか?
人と社会と多面的に関わりながら、その在り方を見つめているステキ人石橋さんをご紹介します。
15年以上続けているライフワーク、西成区のおっちゃん紙芝居劇団”むすび ”
「人間の社会に興味がある」自身の気づきの中で出会った”おっちゃんたち”
2005年から西成区・釜ヶ崎を拠点にする”おっちゃんたち”による紙芝居劇団”むすび”のマネジャーをしています。
この”おっちゃんたち”というのは、元ホームレスだったり、生活保護を受けていたりするような、おっちゃんたちのことを言います。
なぜ私が、そんな個性的な”おっちゃんたち”のマネジャーをすることになったかと言うと、当時は、私自身が迷える人で、会社員を辞めて外国へ旅をしたり、日本に戻ってまた勤め人をしたり、人権の仕事もしたりと…色々なことをしていました。
様々な経験をしていく中で、ある時”私は、人間の社会に興味がある”という自身の欲求に気がつきました。
それも…社会を”一面”から見るのではなく、なるべく多角的に…社会の表だけではなく裏も見ていたいという欲求でした。
そんな気持ちが芽生えていた時に、出会ったのが紙芝居劇団”むすび”でした。
劇団自体は、私が出会う前から活動をしていましたが、ちょうど私が出会ったタイミングで、”おっちゃんたち”のお世話をするマネジャーさんが不在でした。
当時ちょうど仕事を辞めたタイミングだったこともあり「これは、私になにかをしろということだな…」と自分に言い聞かせ、そのまま流れに身を任せて”おっちゃんたち”のマネジャーになりました。
そんな経緯でマネジャーを始めて、気がつけばもう15年です。
”むすび”は、”1人”のおっちゃんたちの居場所作り
”むすび”は紙芝居劇団ですが、それは口実です。要は1人暮らしのおっちゃんたちが集まる”居場所”です。
ここにいる”おっちゃん”というのは、すべてのつながりを断った人や、つながりが切れた人、自分から切った人など…様々な経緯で、西成区・釜ヶ崎に辿り着いた人たちです。
人は高齢になると、心細く寂しくなり、自然と自身の活動範囲が狭くなり、人との交流も無くなっていきます。
でも、その人たちがこれまで積み重ねてきた人生には、私たちが知らないような数々の世界があります。
そんな”おっちゃんたち”の人生のエッセンスを引き出してあげたい…そんな気持ちが詰まっているのが、この紙芝居劇団”むすび”です。
そばにいることで見えた”おっちゃんたち”の世界
意外に思われるかもしれませんが、”むすび”の”おっちゃんたち”の毎日の生活は意外にも淡々としています。
すごく秩序にあふれていて、淡々と粛々とした佇まいの人が多いんです。なにか困ったことをしたり、暴れたりするような人はいません。
詳しい話を聞けば、きっとそれぞれ波乱万丈の人生を送ってきたとは思います。でも「俺は昔こうだったんだ!」と声高に主張する人は、ここにはいません。
暑苦しくなく、ただ淡々としている…まるで実家のような、みんなで時間の流れを感じながら、共に年をとっていくような…そんな空気が流れています。
私は、そこがすごく好きで、この淡々とした”おっちゃんたち”の世界を引き出したい…それがこの活動に惹かれ、関わりたいと思った理由でもあります。
15年以上続けている”むすび”はライフワーク
”むすび”の活動は、ただ一言”面白い”です。”おっちゃんたち”の紙芝居を見ては、毎回、腹を抱えて笑っています。
普段の生活を送っていると、腹を抱えて笑うことってなかなか無いですが、この”おっちゃんたち”といると、自然と自分の中の概念や殻が破けていきます。
1人の人間として、純粋にシンプルに楽しむことができる場所…それが”むすび”です。
最初は、助成金をもらって運営のやりくりをしていたりもしました。でも、今は完全に無償でマネジャーをやっています。
その理由は、”ただただ私が純粋にやりたいこと”だからです。
”むすび”は、私の人生における生活の一部で、生計を得ることとは次元が違うもの。収入を得ることとは別の”得るもの”がある場所。
自分のために純粋に必要な活動。つまりライフワークなんです。
いずれ年を重ねていった時に、今度は自分が”むすび”のメンバーに入ろうとも思っています。
”むすび”という場所は、自分にとっての未来の居場所でもあります。
ダンサーとしての顔を見せる”日本舞踊”
”むすび”のマネジャーをする2、3年前から日本舞踊を習い始めていました。
ただ”むすび”の”おっちゃんたち”の活動に触発されたのか、2008年頃から私自身も人前に出て、踊ることを始めました。
日本舞踊というと、堅苦しい伝統芸能と思われる人もいるかもしれませんが、私の日本舞踊は、もっと自分の殻を出すアングラなものです。
”本性をさらけ出す”そんな感覚に近いです。
”むすび”はマネジャーとして支える立場ですが、ここでは”自分の本性を見せるダンサー”としての私がいます。
”むすび”をやっていると「おじいちゃんの面倒を見ている優しい人」という風に思われることもあるのですが、決してそうではありません。
私自身、当然1人の人間として、厳しさや強かさといった面も備えています。
そんな自分の一面を人前で表現することは、自分自身にとって必要で、そうすることで私自身のバランスが程よく保たれます。
日本舞踊家としての”私”も見ていただくことで「石橋さんってこんな面も持ってるんだね」そんな風に人から思ってもらえれば嬉しいです。
人の身体性と精神性に向き合う”フットケアセラピスト”の仕事
フットケアセラピストの仕事に携わる前は、障害を持った方達のヘルパーや家庭教師の仕事などをしていました。
でも、本当に自分のやりたいことと、違うなという思いが正直ありました。”むすび”のマネジャーを始めてからは、なおさら勤め人として仕事をしていくことが厳しいなとも感じるようになりました。
そんなタイミングで、友人が紹介してくれたのが「足爪補正士」という仕事でした。
もともとカラダ1つでやれる仕事がしたかったというのと、ミクロの世界が好きだったこともあり、「フットケア」の仕事は、うってつけの世界でした。
”むすび”や”日本舞踊”と共通点がなさそうに見えるかもしれませんが、人の身体や動きに触れたり、相手の身体性や精神性に向き合ったりするということについては同じです。
どうしたら気持ちよく豊かに暮らしていけるのか…「フットケア」の仕事に携わることで、人の外見と内面に触れて、より自分の人生を深めていくことができるんです。
足の美容室:Bondir(ボンディール)ウェブサイト
http://bondir.info/
セラピスト・日本舞踊家・マネジャー。石橋さんが3つの活動をする理由
セラピスト・日本舞踊家・マネジャー。
全て人と関わる活動をしていますが、私は「人が好きです!」と声高に言えるような人間ではないと思っています。むしろ、人が多い場所は苦手です。
私は、個人個人の「人」に興味を持つというよりも、社会のあり方や、その中で生きる人の人生といった…エッセンス的なものに関心があります。
「人」というよりも「社会」に関心があり、その社会と関わる「人間模様」が好きなんです。
でも、なぜそれが好きなの?と言われると..特にきっかけはないんです。好奇心が強いとかいうか…ただ見ていたいんです。
明るいところだけでなく、光も影も見たい。できれば裏の裏まで見ていたい…そんな気持ちです。
人と社会を見つめ、自分自身を深めたい
「人間模様」というのは、楽しいことも悲しいことも全て含めて、その1つ1つにドラマがあります。
すべての出来事から滲み出るエッセンスを、良いとか悪いではなく、しっかり見つめていられる、キャッチできる人でいたいなと思っています。
自分は、この社会のどんな立ち位置にいて、どんな風に自分を深めていけばいいのかを自分で理解していたい。
それでのし上がっていこうとか、そんなことは考えていません。ただただ見つめて、自分自身を深めていきたいです。
”どこにいれば自分が満たされるのか?”探し続けて辿り着いた”自分の道”
私は、今”満たされた人生”を歩むことができています。
でも、そこに行きつくまでには、満たされない気持ちもたくさん抱えてきました。”自分には何が足りないのか?”という課題とも、ずっと向き合ってきました。
私は、心が満たされない時は…勇気を出して、そこに光を当てるべきだと思っています。
私自身、これまで自分の中で違和感を感じていたことや心が痛むところには、グリグリとライトを当て、メスを入れてきました。
どこに行って、何をすれば自分は満たされるのか?それを知るために、足を運び、人と会い、本を読み…試行錯誤しながら、”自分の道”へ向かって歩んできました。
そうすれば、自然と人のありがたみを実感し、自分自身のやりがいにも気づくことができます。
あくまで”普通のこと”しかやってきてはいないのですが、「自分が満たされるためにはどこへ行けばいいのか?」を探し続けたことで、それを見つけることが出来たのかなと思っています。
目指すのは「なにも目指さない」という生き方
今後の目標について聞かれることがありますが、私の目標は「目指さないこと」です。
今回のコロナでも改めて感じましたが、自分の中でなにか目標を立てたとしても、それは変わってしまうものです。
人生は、計画通りにはなりません。先の見えない未来を考えれば不安になるし、過去を思えば悲しい気持ちになることや悔い入ることもあります。
だから私は、過去とか未来は考えずに、”このまま”で”今を生きること”を大事にしています。
「目指さないを目指す」それが私の目標です。
最後に…石橋友美さんが思うステキ人とは?
自分の中で哲学を持っている人
編集後記
「私、普通のことしか話してないでしょ?」それは、インタビュー中の石橋さんからの印象的な一言でした。
石橋さんとお話しする前「こんなに様々な肩書きを持っていて、個性的な活動もされていて…一体どんな人なのだろう?」という想いを抱いていたのですが、実際にお話をして感じた印象は、「個性的」とは違う、決して気負わない「自然さ」でした。
今回のインタビューで、石橋さんが3つの肩書きを持たれているのは、「目指さない人生を目指す」の中で、石橋さんがたどり着いた1つのカタチだということを知ることが出来ました。
「どんな生き方が幸せな人生か」それは人それぞれです。ただ、世間一般とされる常識に強く捉われてしまうと「自分にとっての本当に幸せな人生」から逸れてしまうことが往々にしてあります。
異なる肩書きを複数持つ、仕事とは別に”ライフワーク”という活動を行う、自分の本質を追求できる環境を作る…石橋さんがたどり着いた”道”は、現代に生きる多くの人に「気づき」を与える生き方だと強く感じました。
”誰かから見て特別な人生”を目指すではなく、”自分自身が自然でいられる人生”を目指す。そんな「人生の気づき」をステキ人、石橋さんから学びました。
2020年8月29日 インタビュー by Zoom(タナカ・さき)
文・タナカ
タイトルデザイン、似顔絵制作・タナカ