インタビュー 日本語版

”思う心で世界中の人におもてなし”【清掃員 新津春子さん】インタビュー後編

投稿日:2019年9月1日 更新日:

”清掃のプロフェッショナル”新津春子さん インタビュー後編

本インタビュー後編では、”清掃のプロフェッショナル”新津春子さん自身に迫り、”新津さんの仕事観”や”これからの目標”、”これから働く方へ向けたメッセージ”をご紹介します。

*前編(羽田空港、日本の魅力を紹介)はこちら

お客さまが何を求めているかを常に考える

ーテレビ番組放送後、新津さんの ”お仕事に向き合う姿勢”が全国で大きな反響を呼びました。改めて新津さんの”お仕事への心得”をお教えていただけますか?

私は、自分自身がどうありたいか、どうしたいかといったことは、そこまで考えていません。

それよりも、まず「お客さまが何を求めているか」。そこから自分の行動を考えます。お客さまが頼んでいるもの、本当に望んでいるもの…それが何かを常に考えています。

例えば、単純な「机を拭く」という作業にしてもそう。「お客さまがどういう目的で依頼をしてきたのか?机がどんな状態になったらお客さまは嬉しいのか?」細かいところまで考えて作業をします。

私は、お客さまに喜んでもらいたいから、この仕事をやっています。だから、お客さまに喜んでもらえなかったら意味がないとも思っています。

依頼をするということ…そこにはお客さまの想いが必ずあります。お客さまが何を求めているのか、どうしたら心に残るのか、それを常に意識しています。

−様々な人が行き交う”羽田空港”という場所で、全てのお客さまのことを考えて仕事をされるのは想像するだけでも大変だと感じます…空港で働くにあたって、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?

空港という場所は、1回しか来ない人が多いので、その人たち全てのことを考えるのは、とても難しいです。沢山のお客さまがいるので、その1人1人が何を思っているかまではわかりません。

そこで私が心がけていることは、”笑顔で仕事をする”ことです。

全てのお客さまのことを考えることは難しいですが、自分が”笑顔”でいることで、お客さまが喜んでいただけること、感じてくださるメッセージはあると思っています。

ーたしかに、笑顔で仕事をされている方を見ると嬉しい気持ちになりますね

はい。でも、自分が笑顔で仕事をするためには”モチベーションを保つ”ことが同時に必要になります。仕事中に、ずっと笑顔の”演技”をしていることはできません。

普段から自然体で笑顔でいられる、心の持ちようが必要になります。

ー新津さんは、どのようにモチベーションを保たれているのですか?

私は、羽田空港で働いている清掃スタッフ1人1人に対して、「あなたは選ばれた人間ですよ」「日本の代表、見本として働いていると思ってくださいね」と伝えています。

「羽田空港で働く=日本の代表として働く」そう本人が意識すれば、日本の代表として胸を張り、自分への自信も生まれます。「笑顔」も自然と出てきます。

”自分自身を高い位置に置く”これはとても大事なことです。普段から自分が心がけることで、カラダに染み付きますし、簡単に下げられなくなります。その姿をみて応援してくれる人も出てきます。

仕事をする上で、大事なのは”自分のモチベーション”です。”モチベーション”がなければ、誰だって長く続けられません。我慢をしていると、いつか無理がきてしまいます。

まず大事なのは”心の持ちよう”、”モチベーション”。作業は、その次なんです。

横のつながり、チームワークを大切に

羽田空港では、空港で働く全従業員に対してCS(顧客サービス)評価をしています。そこで選ばれた人は表彰され、海外の研修旅行に行くことができます。

私は、これまで2回表彰をいただいたのですが、その時に一緒になったスタッフとは、日々意見交換をしていて、空港内で気づいたことがあれば、コミュニケーションを取り合っています。

例えば、清掃スタッフの私が仕事中に空港内の売店を見て気になる点があったとします。私が売店の店長さんと仲が良ければ、すぐに「ねぇ、店長さん…」と声をかけることができます。横のコミュニケーションがスムーズになれば、空港全体のパフォーマンスは向上します。

羽田空港が“世界で最も清潔な空港”に選ばれた理由の1つには、空港内での業種を越えたスタッフ同士のコミュニケーションの積み重ねがあると私は思っています。

これから仕事を始める人たちへ

ーこの「えもてなし」は学生メンバーが中心の活動で、多くの学生さんが見ています。これから仕事を始める若い人たちへ向けて、メッセージをいただけますか?

私は、今の若い人たちは”何をしていいのかわからない”という人が多いように感じています。あと”人の目を気にし過ぎ” です。

私は、この2つのことは、意味がない、考える必要がないことだと思っています。

社会人のスタートは、何も知らない”何をしていいのかわからない”ところから、みんな始まります。だから焦る必要ないんです。最初は、何も知らなくていいから、足を動かして、見て聞く…その経験をするだけでいいんです。

ただ1つアドバイスとしては…”興味”だけは持って欲しいです。少しだけでもいいので、興味を持って仕事をするようにしてください。

そうすると、そのうちに自分から工夫して仕事をすることができるようになります。だんだん仕事が好きになってきます。仕事が好きになってくると、将来に繋がるものや、自分のしたいことが見えてきます。

そして、人の目を気にし過ぎないでください。

人間だから間違いや、ミスはあります。自分が間違えても、あまり落ち込まないようにしてください。それよりも、どうしたら次にまた間違えないかを考えればいいんです。

社会人になって、周りの評価や人の目を気にしすぎて潰れてしまう人はたくさんいます。

自分を最後に守れるのは自分だけです。
周りの目を気にし過ぎないで、自分自身を守ることを大切にしてください。

新津さんの現在のお仕事、そしてこれからの目標

ー新津さんは現在、空港以外にもハウスクリーニングのお仕事をされていらっしゃると伺いました

TV番組の放送後、多くの反響があり、しばらく空港内に出られない状況になりました。私は清掃の仕事が大好きなので、現場に出たいのに出れないことで、ストレスが溜まってしまいました。

そういった事情や個人宅での清掃という仕事に関心があったこともあり、現在は、ハウスクリーニングのお仕事を主にしています。

ー空港とハウスクリーニングの仕事の違いは?

空港や商業施設と違い、個人宅はハウスメーカーさんによって、部屋の材質が異なるので、綺麗にするためには毎回様々な道具が必要になります。部屋の隅々まで磨き上げる必要があるため、より細かな技術が求められます。

毎回、新しい発見があり、勉強になります。

「新津春子のハウスクリーニング ”思う心”」詳細はこちら

ー新津さんのこれからの目標を教えてください

私自身は、80歳まで働くことを目標にしています。

今は、65歳が一般的な定年です。定年になるまで多くの人は、家族のために働くなど、自分以外のために働きます。ただ65歳から先の人生は、それが外れます。つまり、それは”自分のために生きていく”人生を歩むことができるようになるということです。

私は、65歳から先の人生で、今までにない新しい発見や実現したいことが出てくると思っています。それを実現させるためには、体力とお金が必要になります。だから80歳までは働くことを続けたいですし、自分が定年後も働き続けることで、定年前とは違った形で、人に対して与えられることもきっとある。そう思っています。

▼新津さんと、新津さんが尊敬されている鈴木常務との2ショット(似顔絵ver)

新津さんの思う”おもてなし”とは

−最後に新津さんが”おもてなし”をする上で心がけていることを教えてください。

私が大事にしていることは、「思う心」です。

この「思う心」というのは、相手に”真っ白な気持ちで接する”という意味です。

相手の年齢や立場を気にせず、真っ白な心で相手のことを考え、思う気持ち。

「思う心」。それが”おもてなし”をする上で、私が大事にしていることです。

 

−新津さん、ありがとうございました!

インタビュー後に「似顔絵」と「思う心」タオルをプレゼント。

インタビューを終えて…

インタビュー後、新津さんと空港内の従業員用通路を歩いていると「新津さん、今日仕事なの?」「あ、新津さん!」と新津さんの姿を見るや、たくさんの従業員の方が新津さんに笑顔で声をかけ始め、それに対し笑顔で「今日は撮影なの」と日本語、時に中国語で、1人1人に挨拶される光景を目にしました。

時間にして、わずか数秒の出来事ではありましたが、その一瞬だけでも、新津さんの人柄とこれまで羽田空港で積み重ねられてきたものを伺い知ることができました。

大きなことを成し遂げるためには、自らの目標を持ち、それを実現するために日々努力を続ける必要があるということを今回、私たちは新津さんの言葉、そして背中から教わりました。

そして…それは続けていれば、いつか必ず実現するということも、私自身、今回新津さんとお会いできたことで身をもって経験することができました。

新津さん、日本空港テクノさま、お忙しい中お時間をいただき本当にありがとうございました。今一度、厚く御礼を申し上げます。

 

インタビューの最後に、新津さんとえもてなしメンバーで記念撮影♪


2019年7月28日(日) インタビュー @日本空港テクノ様、羽田空港

文・タナカ

タイトルデザイン、似顔絵制作・タナカ

写真・長岡亮平

-インタビュー, 日本語版


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